日々塗り替えられる医学の常識
医学の世界では、それまで常識と思われていたことが数年という短い期間でひっくり返ることがよくあります。
例えば、膝の半月板損傷の治療についてもその一つです。
中高年以上の膝が痛い方のMRIを見ると、結構な確率で半月板が損傷しています。
でもこれって、別に打ったり捻ったりという外傷ではなくて、変性といって徐々に傷んできていることが多いのです。
そして、変性した半月板は手術での縫合修復が厳しいので部分切除で傷んでいるところを取り除くという関節鏡手術が10年前くらいは盛んに行われていました。
実際に、私も先輩と一緒に何度も手術をしてきました。
でも、今はかなり減っているんです。
Arthroscopic partial meniscectomy for a degenerative meniscus tear: a 5 year follow-up of the placebo-surgery controlled FIDELITY (Finnish Degenerative Meniscus Lesion Study) trial Raine Sihvonen et al. Br J Sports Med. 2020
例えば、この論文のように、半月板部分切除を行うことにより、5年後の軟骨のすり減りが増えてしまうからなのです。
そして、その結果として最後には人工関節が必要になることも多くなります。
でも、このことって当時から整形外科医の誰もが心配していたことなんです。
とは言っても、明確なデータがなかったですし、傷んでる半月板は残しても逆効果だろう、というメカニズム的な推測があったこと。
また、実際に術後に症状改善する人が多かったことから、積極的に関節鏡手術が行われていたんです。
しかし、先ほど示した論文では、プラセボ関節鏡(関節鏡を挿入しても処置はせず)と部分切除術を比べたときに、症状改善効果は変わらなかった。
という結果も示されています。
そうなると、もう関節鏡下半月板部分切除を積極的に行う理由はないわけです。
その後の軟骨がすり減りやすいという害にすらなりうるので、本当に慎重に適応を決めないといけません。その結果、激減したわけですね。
このように医学の世界での常識は本当に覆ります。
そして、その覆る原動力こそが、まさに「エビデンス」なんです。
「この治療が機能的にもいいだろう!」
とフィーリングだけで突き進む危険性も是正してくれるのです。
昔の常識が今の非常識にすらなってしまう日進月歩の医学。
私も常に情報や知識の更新をしないといけないなぁ…と感じております。